サンゴ礁
 

第18回大会2015

日本サンゴ礁学会 第18回大会報告

ニュースレター68号では写真付きで報告がご覧になれます。  ⇒ NLはこちら

 去る11月26日(木)から29日(日)まで、慶 応義塾大学三田キャンパスにて、第18回大会が開催されました。山口徹実行委員長をはじめ、実行委員の大半が人文・社会科学系の研究者だったこともあり、本大会では、文理・異分野の架橋と 一般の方々へのアピールという2点を意識した上で、いくつかの新たな試みに挑みました。まず、主会場となった南校舎5階ホールの周辺スペースでは、水中写真家の中村征夫様の全面的 なご協力を得て、サンゴ礁の海をテーマとした写 真展が行われました。壁や窓ガラスは色鮮やかな サンゴや魚などを写し出した大判の写真で覆われ、 大学キャンパス内とは思えない空間となりました。 期間中は常時一般に無償で公開していたために、 小さなお子さんを含め多数の方々にご鑑賞頂き、 海の中を歩くような感覚を楽しんで頂けました。 また、南校舎5階の教室のひとつでは、参加者 がくつろいだりおしゃべりしたりすることを目的 とした、「コーラルカフェ」が開かれました。セル フサービスのカフェスペースの脇には、アクア環 境システムTOJO様のご協力によって、本物のサ ンゴや熱帯魚が息づく水槽が設置されました。さ らに同教室では企業展示が行われ、併せて玉川学 園の中高生、喜界島サンゴ礁科学研究所を訪れた小学生によるサンゴに関するポスター展示も行われました。玉川学園の中高生は口頭での発表も披露して下さり、その情熱とレベルの高さに感激した会員も多かったようです。
 研究・活動成果発表という点においても、本大会では口頭発表・ポスター発表に、テーマ・セッ ションという枠が加わるという試みがありました。 テーマ・セッションでは、学際的・挑戦的なテー マをもとに、分野横断や他学会との連携が図られ、 活発な議論が行われました。さて、本大会で「人文・社会科学系らしさ」が最 も発揮できたのは、最終日のシンポジウム、「サンゴ、<野生の科学>と出遭う」だったかと思い ます。ゲストスピーカーにお迎えした宗教人類学 者の中沢新一様のご講演はもとより、それに対する会員パネリストの応答も刺激的で、冒頭に述べた文理・異分野の架橋と一般の方々へのアピールにある程度成功したのではないかと思います。 本大会には最終的に、177人の会員、35人の 非会員にご参加頂きました。懇親会にも137人の方々にご参加頂き、フラサークルのみなさんによる素敵なショーというサプライズもあって、に ぎやかな夜となりました。口頭発表は全32件、ポスター発表は全75件、テーマ・セッションは 全6件(発表総数23件)でした。諸々の不手際も ありましたが、日本サンゴ礁学会の新たな展開を 期待させる盛会であったと言えるのではないかと 思います。この場を借りて、ご協力・ご参加頂いた皆様に深くお礼申し上げます。 (大会事務局長 深山 直子・東京経済大)
 
第18回大会実行委員長 山口 徹
大会実行委員:深山直子(事務局長)、茅根 創、中村修子、棚橋 訓、山野博哉、佐山のの、臺 浩亮、下田健太郎、高野貴士
 
日程:2015年11月26日(木)~11月29日(日)
会場:慶應義塾大学三田キャンパス(南校舎5Fホール・教室)(口頭発表、ポスター発表、総会、懇親会、自由集会、各種委員会)
東京都港区三田2-15-45、TEL: 03-3453-4511(大学代表) 

第18回大会スケジュール

7月24日(金)17:00 テーマセッション事前応募の締め切り (募集期間は終了しました )

8月3日(月)10:00 事前支払・参加登録、研究発表申込開始

9月25日(金)17:00 事前支払・参加登録、研究発表申込締切(これ以降は割引の効かない当日払いとなります。事前払いするには事前参加登録が必須です。)

10月15日(木)17:00 要旨締切(電子メールによる受付)

大会スケジュール/案内

11月26日(木) 大会1日目

 午前:    各種委員会
 14:30~18:00  評議員会

11月27日(金) 大会2日目

 7:45~            受付開始
 9:00~18:30     口頭発表
 18:45~20:45  自由集会1~3

11月28日(土) 大会3日目

 8:00~          受付開始
 9:00~11:00   ポスター発表(奇数) 9:45~10:15 スピードトーク
 11:00~13:00  ポスター発表(奇数) 11:45~12:15 スピードトーク
 14:00~15:15   口頭発表
 15:30~18:00   総会/受賞講演
 18:15~20:30   懇親会

11月29日(日) 大会4日目

 8:30~           受付開始
 9:15~10:45    テーマセッションTS1~TS3
 11:00~12:30   テーマセッションTS4~TS6
 13:30~16:30   公開シンポジウム

公開シンポジウムの告知映像(You Tube)

プログラム

第18回大会の口頭・ポスター発表プログラムは、下記の通りです。

口頭/ポスター発表 

 *プログラムはNL67(要パスワード)でもご覧頂けます。NLもあわせてご覧下さい

公開シンポジウム

「『サンゴ、<野生の科学>と出遭う』」

日時:2015年11月29日(日曜日) 13時30分~16時30分

会場:慶応義塾大学三田キャンパス 南校舎5Fホール

ゲストスピーカー:中沢新一氏(明治大学)

ゲストフォトグラファー:中村征夫氏(Squall)

パネリスト:茅根創(東京大),鈴木款(静岡大),柳谷牧子(環境省)

司会:山口徹(慶應大),深山直子(東経大)

内容:会場に展示される中村征夫さん (水中フォトグラファー)の作品には、色とりどりの魚たちと共に暮らす不思議な生き物、サンゴが息づいています。そんな豊かなサンゴの海を、身近なものとしてはぐくみ学ぶヒントが〈野生の科学〉にあります。心と知をつなぐこの発想を、人類学者の中沢新一さんがやさしく解き明かしてくださいます。それを踏まえて、パネリストのみなさんがサンゴの海について新たな目で捉えなおし、語り紡ぐことに挑みます。はたして、その物語は皆さまの心に響くでしょうか。乞うご期待!

公開シンポジウムの告知映像(You Tube)もご覧いただけます。

公開シンポジウムのフライヤー(PDF:3MB & 2MB)は、下記の画像をクリックするとダウンロードすることが出来ます。

<公開シンポジウム開催報告>

 大会最終日の11月29日(日)午後、公開シンポジウ ム『サンゴの海、〈野生の科学〉と出遭う』を開催しました。 会場には2百名を超える方々が集まり、人類学者、中沢 新一さん(明治大)の目くるめく話しの展開に皆さん引き 込まれていきました。講演に続き、中村征夫さん撮影の サンゴの海の作品が次々とスクリーンに映し出されると ともに、田中麻理さんが奏でるアイリッシュハープの音 色で会場が満たされました。  そもそも「野生の科学」とは何でしょう。もちろん野生 生物についての科学ではなく、近代以前の思考のあり方 を科学するという意味です。中沢さんは、その科学を説 明するために「不思議な環」というキーワードを用います。 近代科学の研究室や教科書の中では、自然は異なる領域 や分野に細分化されていますが、ひとたびフィールドに 出ると、植物・動物・人間が当たり前に繋がり、全体を 織りなしています。その繋がりを「不思議な環」と呼び、 たとえば伝統社会の神話にあふれる自然と人の豊かな関 係にそのヒントを探るわけです。今回の講演では、レイ チェル・カーソンの語りを借りて「絶えず生命が創造され、 また容赦なく奪い去られている」海辺へと私たちを誘い、 縄文晩期の環状木柱列を子宮のアナロジーとして、また 同時期の勾玉を魚期の胎児として語り、神楽に誘われて海中より現れる安曇(アズミ)の磯良(イソラ)の伝説へと旅する展開でした。牡蠣殻やフジツボが顔中に付着した磯良は、海と陸を行き来しながら両世界を繋ぐ神というわけです。中沢さんの意図は、異なるものが出会い繋 がる海辺としてサンゴ礁を位置づければ、その包括的な 研究が生と死、海と陸、生命と物質を統合する総合科学たるのではと問うことにありました。日本の森のホーリ スティックな理解を目指した南方熊楠の科学のように。シンポジウムの最後に、鈴木款さん(静岡大)、柳谷牧子さん(環境省)、茅根創さん(東大)、山野博哉さん(環境研)とともに中沢さんを囲んでコロキアムを持ちました。司会は、深山直子(東経大)さんと私が努めました。 中沢さんに触発されて大いに盛り上がった私たちの思考は、「パサージュ」(行き来)するサンゴへとたどり着きま した。考えてみれば、たった1つのポリプが無数に分裂 して群体をつくるサンゴにとって、個体としての生と死の境は曖昧です。受精したプラヌラ幼生は波に漂って移動しますし、着定してからは海面に向かって成長します。 海面が急速に上昇した完新世には数千年の時をかけて炭酸カルシウムの骨格を積み上げ、サンゴ礁という地形を生み出しました。そして今、海水温の上昇とともに南のサンゴは温帯へと分布を広げつつあります。  生と死の間を、生命と物質の間を、そして海の中をパサージュする不思議な存在としてサンゴをアピールして みてはどうでしょうか。さらには、サンゴの海を水景として私たちの身近にもたらすアクアリウムの試みも、サンゴからすれば海と陸の間のパサージュと言えます。そんな語りを通して、もっと多くの人びとをサンゴの海に結び付ける「不思議な環」を日本サンゴ礁学会は生みだせるかもしれません。 (山口徹・慶應義塾大学)

自由集会

自由集会① 「若手研究最前線」

オーガナイザー:中村 隆志(東工大)、藤井 琢磨(鹿大)、湯山 育子(遺伝研)

話題提供者:高橋 俊一(基生研)、白井 厚太朗(東大)、窪田 薫(東大)、Alex S.J. Wyatt(東大)、上野 大輔(鹿大)

 「若手研究者問題」という単語で表されるように、現代の若手研究者を取り巻く状況は易しくありません。前回大会では、サンゴ礁学会若手会主催にて若手期をいかに 乗り越えるか、をテーマに盛り上がりました。実際、厳しい状況下でも能力を発揮し活躍している若手研究者は少なくありません。今回は、過去の学会大会では話を伺 う機会の少なかった若手サンゴ礁研究者の方々に講演を お願いしたことで、若手研究の最前線を垣間見ることが できました。  どの講演も私にとっては目新しく、見識の広がる内容 でした。全ての講演に共通することは、既存の分野に限 られた調査・研究ではなく、異なる分野の技法や材料を 取り入れ学際的な研究を遂行することで、新たな興味・ 課題が生まれるということでした。プロジェクトのボス や指導教官に言われるがままの研究ではなく、若手ならではの柔軟な発想から課題にアプローチする。新たな 材料を使えば新たな手法が可能になり、これまで注目さ れていない環境で調査を行えば新たな材料が見つかる、 等々。言うは易し行うは難しですが、講演者の皆さんは 楽しみながら自身の課題を追及されているようでした。 当たり前のことではありますが「楽しみながら」というのも、 最前線で研究し続けるのに重要なキーワードだと、最近、 改めて感じるようになりました。 サンゴ礁学会若手会も、多分野の研究を行う若手が交流し、新たな研究創造が自然と行われる「楽しい場」であれば良いなと思います。今回は時間が限られたため十分な議論は出来なかったのは残念でしたが、自分自身にとっても、参加して下さった若手にとっても、今後について 多くのヒントが得られた有意義な時間を過ごせました。 (藤井 琢磨・鹿大)

自由集会② 「蛍光撮影技術を生かした海洋生物イメージングとモニタリング III」

オーガナイザー:古島 靖夫(JAMSTEC)、丸山 正(JAMSTEC)、Sylvain Agostini ( 筑波大)、鈴木 貞男(O.R.E.)、篠野 雅彦(NMRI) ※ JAMSTEC: 海洋研究開発機構、NMRI:海上安全技術安全研究所

海洋生物・生態学研究の視点から蛍光撮影技術が如何 に利用できるか、について分野横断型の議論を気楽に行える場として自由集会を開催しました。蛍光撮影技術 は、非破壊かつ高感度で観察が出来るというメリットが あります。生態学的な研究にこの技術を応用すると、サ ンゴ着生初期から半年くらいまでの生残を現場で観察・ 発見できる可能性があります。また、現場の蛍光画像から、サンゴ内の褐虫藻の細胞数が見積もれれば、白化の 前兆を現場で捉えることが可能になり、延いては白化予 測に繋げられる点や、蛍光プロファイルが取れれば種判 別、サンゴ内の褐虫藻クレード判別などに応用できる可能性も示唆されました。そのためには、撮影装置の小型 化や撮影モードの拡張(例えば、顕微鏡モードやムシ眼鏡 撮影)、全蛍光観察ができる励起光とフィルターセットの 開発等の技術開発が必要であることが分かりました。また、 様々な生物の蛍光プロファイルの取得とデータベース化や、 蛍光の標準化も重要であることが議論されました。一方、 蛍光撮影装置を利用する立場から、ユーザーへのマーケティ ングも検討していくことが重要であるとの意見を頂きま した。集会の最後には、我々が開発したハンディマルチ 蛍光撮影装置のデモンストレーションを行い、蛍光撮影 技術に関する理解も深めました。蛍光撮影技術を生かし た海洋生物研究は未だ点に過ぎませんが、それを拡充す るためには、今後も継続的に分野横断型の議論を行うこ と(千里の道も一歩から)が大切であると我々は信じてい ます。 (古島 靖夫・JAMSTEC)

自由集会③ 「サンゴ礁におけるフィールドワークの活性化と安全確保の両立のために」

オーガナイザー:中井 達郎(調査安全委員会委員長)  

話題提供者:小池 潔(海に学ぶ体験活動協議会 )、目崎 拓真(黒潮生物研究所)、中野 義勝(琉球大)

サンゴ礁に関する活動では、研究の場面、教育普及の 場面、また保全活動の場面でも野外での活動は欠かすこ とができません。一方で、海を中心とする野外の活動では、 様々なリスクを伴います。安全を確保しつつ、野外での 活動をより盛んにしていくためにはどのようにしたら良 いのか、その方策、ポイントについて3名の方からの話 題・情報提供と約20名の参加者による意見・情報交換 を行いました。ゲストスピーカーとしてお招きした小池潔氏(海に学ぶ体験活動協議会CNAC理事)は、プロの ダイビングインストラクターとして長年、海・海岸での 環境教育活動・保全活動に取り組んで来られた方で、「海 辺の安全知識と感動体験は海の神秘を解き明かすエネル ギー~海辺のリスクマネージメントの現在」と題してご講演を頂きました。フィールドを知ることは安全確保のた めにも必要なこと、近年の子供たち(学生も含む)にはそ れが欠けていること、それを承知の上で指導者・リーダー は活動すること、そのための体制・スキルを取っておく べきことなど、重要なご指摘を頂きました。紹介頂いた 「海あそび安全講座」の小冊子は、様々な場面で活用できそうです(http://www.cnac.sactown.jp/)。さらに目崎拓真会員から黒潮生物研究所での取り組み、中野義勝 会員から琉球大学瀬底研究施設と地域の環境教育活動で の取り組みについて情報の提供を頂きました。参加者か らも大切な情報が提供されると同時に、さらなる情報交換が必要であるとの意見が出され、今後、学会HPなどを通じて情報共有を進めることを確認しました。 (中井 達郎・国士舘大)

テーマセッション

 テーマセッション① 「オニヒトデの大量発生」

オーガナイザー:岡地 賢(コーラルクエスト)

話題提供者:岡地 賢(コーラルクエスト)、安田 仁奈(宮崎大)、金城 孝一(沖縄衛生研)、中富 伸幸(創価大)、熊谷 直喜(環境研)

沖縄県の「オニヒトデ総合対策事業」は、大量発生メカ ニズムを理解して抜本的な対策を講じるための調査研究 と、駆除活動の即応性を高めるための大量発生予察手法 の検証、さらに統括的な効果的防除対策の検討という3 要素から成っており、今回は調査研究6件が発表されま した。 オーストラリアでは、陸から流れ込む栄養塩によって 植物プランクトンが増殖し、それを餌として多くのオニ ヒトデ幼生が生き残った結果、大量発生が起きると考え られています。沖縄でも同じ仕組みで大量発生が起きる か検証を試みました。餌の指標であるクロロフィル量は、 本島南部では比較的高いものの、恩納村沿岸では生存限 度に近い低い値でした。一方で、幼生は植物プランクト ン以外の有機物粒子(デトリタス等)も餌として、従来の 想定より低いクロロフィル量でも生き残る可能性が示唆 されました。沖縄におけるオニヒトデの大量発生は、陸 からの栄養塩だけではなく、他の要因も考慮する必要が あると考えられます。  集団遺伝解析では琉球列島内で幼生の流動が確認され ましたが、海流データに基づく幼生分散シミュレーショ ンでは、八重山と慶良間からは拡散傾向に、宮古や本島か らは滞留傾向でした。  今後の研究展開として、野外幼生の分布と、その周辺の 餌条件に対してどのような反応をするか、あるいは、親ヒ トデがどう移動するかの検討が提案され、今後、課題解決 に向け取り組みたいと考えています。 (岡地 賢・コーラルクエスト)

テーマセッション② 「小島嶼国(環礁国)の国土保全策とその適用」

オーガナイザー:茅根 創(東大)  

話題提供者:茅根 創(東大)、山口 徹(慶應大)、三村 悟(JICA)、古川 恵太(OPRI-SPF)

 小島嶼国は,地球環境変化に対してぜい弱です。しか し現在起こっているのはローカルな問題が大きく、それ が将来加速する地球環境変化に対して、島の人々が維持 してきた地生態学的なレジリエンスを弱めています。一 方で、ローカルな問題も、社会経済のグローバル化によっ て引き起こされてきました。小島嶼国の人々は貨幣的に は貧しくとも、頑強な国土と社会基盤を島ごとに固有の 統治システムによって維持してきました。しかし、グロー バル化する社会経済と外部から導入された政治システム は、小島嶼国を援助が必要な最貧国に貶め、首都への人口 集中や不適切な土地利用・人為改変、生態系の劣化を産み 出しています。本セッションでは、こうした問題をあぶ り出し、解決のための方策を議論しました。  最初に、茅根が、地学・生態学・工学的な視点から小島嶼 国の国土保全が生態系保全と等しいこととその限界を指 摘しました。次に山口が、小島嶼国の自然条件の多様性 に基づく通時的な変遷を、人文科学的な視点からまとめ ました。次いで三村が、国際社会に翻弄されてきた小島嶼国の歴史に基づく支援のあり方を論じ、最後に古川が、 小島嶼とのパートナーシップによる問題解決の方策として「島と海ネット」を紹介しました。 セッションには、大学、官庁、財団、企業から30名が出席して、熱心に質疑を行いました。総合討論の時間がと れなかったのは残念であるが、今後もこうした集まりを続けていきます。 (茅根 創・東大)

テーマセッション③ 「海水による炭素循環の一端を担うサンゴ礁:大気二酸化炭素下で弱い塩基海水の本性を異分野との連携から解明へ」

オーガナイザー:市川 和彦 ( 北大 )  

話題提供者:横川 太一 (JAMSTEC)、 窪田 薫 ( 東大 )、 池田 元美 ( 北大 )

サンゴ礁は沿岸生態系への影響のみならず産業勃興に かかわっています。他方、大気二酸化炭素は水溶性炭素 (DIC)の物質変換・物質循環によって地球空間・地質時間 の各スケールで地球環境に正負の影響を発信し続けてき ました。その際にサンゴ礁は重要な役割を果たしてきた と考えられます。石灰化を行う海の生き物は海水に取り 込まれた当気体を鉱物化して固定化してしまいます。大 気二酸化炭素が溶解しているにもかかわらず、海水は弱 い塩基性です。ホウソ安定同位体法によって決定された 過去のサンゴ礁海水pHは弱い弱酸性となっています(窪田氏)。サンゴ礁は石灰石の過飽和又は飽和状態のどちら なのか。究明するにはおもてに現れない海水の重要な本 性を考証する必要があります。海水の本性として分子・イ オン、細菌(~10万個/mL)、植物・動物プランクトンの間 の食物連鎖秩序があって炭素循環が成立しています(横川氏)。海水と生き物との界面で大気二酸化炭素から生成 した化学種が移動します。酸塩基緩衝作用と鉱物への物 質変換が群体・ブルーム成長を促しており、海水の本性に 対応した炭素循環があります。しかし2100年以降,海 洋の炭素吸収能低下と水温上昇によって地球温暖化が進 行します。持続不可能な地球環境への移行の予測 (池田 氏)を否定できません。生物多様性を保つサンゴ礁は物理・ 化学・生物のルールに対応しながら海水pH増減によって 回復力を示してきました。海水の本性把握による当エコ システムの究明は大気二酸化炭素を取り込み・固定化の リアルな仕組みの発見につながると考えています。 (市川和彦・北大)

テーマセッション④ 「サンゴの種苗生産と植え付け」

オーガナイザー:大森 信 ( 東京海洋大学名誉教授 )  

話題提供者:大森 信、錦貫 啓 ( アルファ水工 )、鈴木 豪 ( 西海区水研 )

 本セッションでは、冒頭に主旨説明として、サンゴ の種苗生産と植え付けによるサンゴ礁修復に関して、 2010年から沖縄県が恩納村周辺で実施している事例を 中心に紹介がありました。続いて、これまでのサンゴの 有性生殖を利用した種苗生産技術の発展の中で、種の多 様性、修復場所の選定方法、スケールの大規模化などが 今後取り組むべき課題として提案されました。さらに、 サンゴ幼生を直接海中で基盤に着生させた場合の生残率 について、着生直後の1年以内は、環境よりも種による 違いが大きく、現時点では幼生放流に適した種と適して いない種があることが報告されました。この後、トピッ ク紹介として、幼生供給基地としての機能を持つ人工礁 のデザイン(エコー・山本)、種苗生産から植え付けまで の方法の違い(水産土木センター・中村)、親の遺伝子型 による受精率の違い(沖縄高専・磯村)、遺伝的多様性を 維持したサンゴ種苗の植え付け(OIST・新里)、サンゴ 幼生の着生と変態(お茶の水大・服田)、沖ノ鳥島での幼 生拡散シミュレーション(国際航業・小松)、サンゴの種 苗生産における褐虫藻の役割とクレード選抜の可能性(西 海区水研・山下)、アクアリストからの助言(アクア環境 システム・高野)といった多数の話題提供がありました。セッ ションは、会場に立ち見の人が出るぐらいの、100名近 くの聴講者が出席する盛況でした。本企画を通じて、サ ンゴ礁の修復技術の発展と課題が認識され、より効率的 で実効性のある手法が改良、普及していくことが期待さ れます。 (鈴木 豪・西海区水研)

テーマセッション⑤ 「サンゴ礁研究・温故知新:パラオ熱帯生物研究所の学際性に学ぶ」

オーガナイザー:佐藤 崇範(琉球大国際沖縄研究所)  

話題提供者:坂野 徹(日大),宮崎 勝己(京大)、林 公義(日大)

 本テーマ・セッションは、昨年の自由集会「サンゴ礁研究・ 温故知新:80年前のパラオの若手研究者達」を引き継ぐ 形で、現在のサンゴ礁研究の礎ともいえる「パラオ熱帯 生物研究所」の特に「学際性」に着目して企画しました。  坂野先生には、研究所の全体像をより深く多面的に把 握するため、派遣研究員たちの当時の研究生活などにつ いて科学史的な視点から再検証し、研究員たちの「南洋」 経験の意味について論じていただきました。宮﨑先生に は、戦後の海産無脊椎動物分類学をリードし続けてきた 内海冨士夫・時岡隆両先生について、パラオでのご研究 とその後の学術的な発展、さらに現在の動物分類学に対 するパラオ時代の影響などについて詳細にご紹介してい ただきました。林先生には、発光生物学の発展に多大の ご尽力をされた羽根田彌太先生について、その生い立ち から、パラオに派遣された契機、戦後のご研究と日本の 博物館へのご貢献等について、その人となりも合わせて 幅広くご紹介していいただきました。ご参加いただいた(学 会会員以外も含む)20名以上の方々には、日本のサンゴ 礁域における多様な研究を支えた研究者達の熱いハート に触れていただけたのではないかと思います。 サンゴ礁研究の歴史をよく理解し、しっかりと学びと るためにも、パラオ熱帯生物研究所を含む関連する歴史 資料についての情報・資料収集及び維持・管理と、それ らを十分活用するための取組みが必要となります。今後 も継続してこのような企画を開催していきたいと思って おりますので、ご関心がある方はぜひお声かけください。 (佐藤 崇範・琉球大国際沖縄研究所)

テーマセッション⑥ 「Ocean acidification beyond tank experiment: What we can learn from the field」

オーガナイザー:Agostini Sylvain ( 筑波大 )、栗原 晴子(琉球大)

話題提供者:Sylvain Agostini ( 筑波大)、栗原 晴子(琉球大)、仲岡 雅裕(北大)、和田 茂樹(筑波大)、木元 克典(JAMSTEC)

海洋酸性化が、海の生態系ならびに海がもたらす様々 な生態系サービスを脅かす可能性が懸念されています。 しかしこれまでの海洋酸性化研究は、単一生物種を用い た短期的操作型室内実験を通して評価したものが多く、 生態系レベルでの知見は限られています。本セッション では、野外で生態系レベルでの研究例や、新たな酸性化 影響評価手法など最新の知見を紹介すると共に、酸性化 研究の新たな方向性についての議論がなされました。  はじめに、下田沖で新たに発見されたCO2湧出海域で の研究と新たな酸性化研究の場としての可能性について 紹介が有りました。続いて、パラオサンゴ礁沿岸で発見 された高CO2高水温環境でありながら、高被度高多様度 のサンゴ群集を示す海域での研究が紹介されました。次 に、北海道沿岸の亜寒帯海草生域での現場及び室内操作 型実験について、さらに温帯藻場域における長期に渡る精密な炭酸化学環境観測の結果が紹介されました。最後にマイクロX線CT法を用いた石灰化影響評価に関する 新たな計測手法が紹介されました。 時間の都合上、議論の場があまりとれなかったが、学会内外から多くの方々にお越しいただき、他分野間での情報交換する大変有意義な場となり、今後の研究の発展に大きな期待を感じました。 (栗原 晴子・琉球大)

コーラルカフェ企画報告

 大会期間中の28、29日は教室を活用した「コーラル カフェ」が、あらたな試みとして提供され、研究者や一 般参加者などでいつも賑わいをみせておりました。この コーラルカフェでは無料のコーヒーがふるまわれた他、9 社の企業様による製品展示や水槽ディスプレイも行われ、 来場者の憩いの場として多くの方が訪れました。
 企業展示ブースでは、オリンパス、CCS、ナモト貿易、旭光通商、 サイエンスアイ、O.R.Eがブースを出展。サンゴ礁保全 啓発活動のパネル紹介や、サンゴ飼育用照明機器、計測 機器、ダイバーの為の水中カメラなどが展示され、訪れ る方はそうした精密機器を手に取り熱心に説明を受けておりました。また、大会初の試みとして展示されたアクアリウムは、MMC、マメデザイン、TOJOグループの提供より実現し、石垣島やアクアリストにより養殖され たソフトコーラルがレイアウトされ、多くの来場者の関 心を引き付けておりました。
 この会場では、玉川学園や喜界島の小中高の学生が、 日頃のサンゴの研究成果を12枚のパネルにまとめ展示 されました。訪れる研究者の方々に熱心に解説を行う姿 は、とてもほほえましく、多くの来場者の心を掴んでい ました。  コーラルカフェは、研究者とアクアリスト、バイバー、 そして一般の方々の交流の場としても活用されました。 (高野 貴士 株式会社アクア環境システムTOJO)
 

 

 
 
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